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大阪地方裁判所 平成10年(ワ)8043号 判決 1999年6月29日

原告

小川まさ子

被告

一宏運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して、金二五四八万五四二五円及びこれに対する平成八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して、金四八一〇万二二〇八円及びこれに対する平成八年一〇月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告高浩(以下「被告高」という。)が平成八年一〇月一七日午後三時二五分ころ、業務で、普通貨物自動車(なにわ一一き三六六一。以下「加害車両」という。)を運転し、大阪市浪速区塩草三丁目一〇番二五号先の信号機により交通整理の行われている交差点を北から西に向かって右折するに当たり、同交差点西詰めの横断歩道上の右前方の歩行者のみに気を奪われ、同横断歩道上の左方からの歩行者の有無を確認せず、時速二五キロメートルで進行したため、折柄、同横断歩道上を南方から北方へ歩行横断中の原告に加害車両の右前部を衝突させて路上に転倒させ、その結果、外傷性脳内出血、頭蓋骨骨折などの傷害(以下「本件受傷」という。)を負わせた事故(以下「本件事故」という。)につき、原告が、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき加害車両の運転者の被告高に対し、自賠法三条及び民法七一五条に基づき加害車両の保有者であり、かつ、被告高の使用者である被告一宏運輸株式会社(以下「被告会社」という。)に対し、損害賠償請求をした事案である。

一  争いのない事実

(一)  本件事故が発生したこと

(二)  被告らに自賠法三条の責任が存すること

(三)  原告は、本件事故により、外傷性脳内出血、頭蓋骨骨折などの傷害(本件受傷)を負い、本件受傷後、三四九日間入院し(原告は平成八年一〇月一七日から平成九年一月八日までの八四日間、富永外科病院に、平成九年一月九日から同年九月三〇日まで二六五日間、泉尾第二病院に入院した。)、症状固定後も、脳の高次機能障害(特に意欲の低下)、歩行不能が認められ、自賠責による事前認定において、後遺症等級一級三号の認定を受けたこと

二  争点

原告の損害額(原告主張の損害額は、別紙原告主張損害額記載のとおりである。)

第三争点に対する判断

原告は、本件事故により、次のとおりの損害を被ったことを認めることができる(以下、一円未満は切り捨て)。

一  治療費 六六〇万九〇三〇円(弁論の全趣旨)

二  入院雑費 四五万三七〇〇円

入院期間三四九日(平成八年一〇月一七日から平成九年九月三〇日。入院期間については、争いがない。)につき、一日当たり一三〇〇円として、この間の入院雑費を算出すると、次のとおりとなる。

一三〇〇円×三四九=四五万三七〇〇円

三  休業損害 一三四万八三〇三円

原告は、夫と二人暮らしで、家事に従事してきたが、原告の年齢(事故時七八歳)、生活状況、原告がこれまで病気のため入退院をするなどしてきたこと(甲一三、乙四ないし七)などの事実に鑑みるとき、一か月の給与額二三万一八〇〇円(六八歳以上の平均給与額表による。)の二分の一を基礎として、入院を余儀なくされた期間(三四九日)につき、家事従事者としての休業損害を算出するのを相当と認める。この場合、原告の休業損害は、次のとおりとなる。

二三万一八〇〇円×三四九/三〇×〇・五=一三四万八三〇三円

四  入院慰謝料 二八〇万円

原告の病状、入院期間、原告の年齢、その他一切の事情を考慮するとき、原告の入院慰謝料としては、二八〇万円をもって相当と認める。

五  後遺症逸失利益 六〇六万九八六八円

原告は、症状固定時、七九歳であるから、稼働期間は平均余命一〇・五九年の半分で、五年とし、前記のとおり、一か月の給与額二三万一八〇〇円の二分の一を基礎として、原告の家事従事者としての後遺症逸失利益を算出すると、次のとおりとなる(なお、甲一〇ないし一三によれば、平成四年七月入院に係る原告の心筋梗塞の既往症は、現在、完治していると認められるので、この点が余命年数ないし稼働年数に影響を与えるものでない。)。

二三万一八〇〇円×〇・五×一二×四・三六四三(五年の新ホフマン係数)=六〇六万九八六八円

六  後遺症慰謝料 二〇〇〇万円

原告の後遺症の症状、後遺症が後遺症等級一級三号に該当すること、原告の年齢による加齢的要素の付加の可能性等に鑑みるとき、原告の後遺症慰謝料としては、二〇〇〇万円をもって相当と認める。

七  過去及び将来の介護費用 一二九九万五五五四円

証拠(甲一三、証人太田美恵子)によれば、本件受傷により原告につき、症状固定時までの入院期間(前記の三四九日間)中についても基準看護では不十分で、娘の太田美恵子の看護が必要であったこと、また、症状固定後も、原告の後遺症として脳の高次機能障害(特に意欲の低下)と歩行不能が見られるところ、原告のため、少なくとも原告の平均余命年数一〇年の期間は近親者の介護が必要であること、もっとも、原告は、自宅での生活は種々の事情により困難であるので、現在、いわゆる老人病院である多根第二病院に入院していること、同病院における一か月の入院費用は平均一二万円であることが認められる(なお、前記のとおり原告の心筋梗塞の既往症は完治しているので、この点は、症状固定後の原告の介護費用を算出するにつき、平均余命年数を基礎とすることの当否に影響を与えるものではない。)。

そこで、一日の介護費用を四〇〇〇円とするを相当として、原告の介護費用を算出すると、次のとおりとなる。

(一)  過去の介護費用

四〇〇〇円×三四九=一三九万六〇〇〇円

(二)  将来の介護費用

四〇〇〇円×三六五×七・九四四九(一〇年の新ホフマン係数)=一一五九万九五五四円

八  損益相殺後の損害 二三一八万五四二五円

以上の損害額合計五〇二七万六四五五円から既払額二七〇九万一〇三〇円(争いがない。)を控除すると、原告の損害額は、二三一八万五四二五円となる。

九  弁護士費用 二三〇万円

本件事故の内容及び態様、本件の審理の経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、二三〇万円をもって相当と認める。

一〇  原告の損害額 二五四八万五四二五円

以上によれば、原告は、本件事故により金二五四八万五四二五円の損害を被ったということができる。

一一  よって、原告の請求は、主文記載の限度で理由がある。

(裁判官 中路義彦)

原告主張損害額

原告は、本件事故により、次のとおり、金4810万2208円の損害を被った。

1 治療費 659万9910円

2 入院雑費 45万3700円

入院期間349日(平成8年10月17日から平成9年9月30日)につき、1日当たり1300円として、この間の入院雑費を算出すると、次のとおりとなる。

1300円×349=45万3700円

3 休業損害 269万6607円

原告は、本件事故当時、78歳という高齢ではあるが、夫と二人暮らしで、家事一切を切り盛りしていたものであるから、家事従事者として評価すべきである。その場合、家事労働は、68歳以上の平均給与額表による1か月の給与所得23万1800円をもって評価すべきである。

以上の数値を基に原告の休業損害を算出すると、次のとおりとなる。

23万1800円×349÷30=269万6607円

4 入院慰謝料 355万0000円

5 後遺症逸失利益 1213万8902円

原告は、症状固定時(平成9年9月30日)、79歳であるから、稼働可能期間は平均余命10・59年の半分の約5年、1か月の給与所得23万1800円を基に5年の新ホフマン係数により中間利息を控除して、後遺症逸失利益を算出すると、次のとおりとなる。

23万1800円×12×4.364=1213万8902円

6 後遺症慰謝料 2600万0000円

7 過去及び将来の介護費用 1624万4625円

(一) 過去の介護費用 174万5000円

原告は、日常生活のすべてについて、他人の介護が必要な状態であり、症状固定までの入院中についても、基準看護では不足で、娘による介護が必要であった。

5000円×349日=174万5000円

(二) 将来の介護費用 1449万9625円

また、症状固定後から将来にわたっても、原告の日常生活の維持のために、他人による全面介助が必要な状態は継続するから、原告の平均余命期間中は、少なくとも近親者による介護が必要となる。

5000円×365×7.945(10年の新ホフマン係数)=1449万9625円

8 弁護士費用 676万8374円

9 既払金及び自賠責保険金の受領2634万9910円

(一) 近畿交通共済協同組合支払分 659万9910円

(二) 自賠責保険支払分 1975万0000円

10 結論 4810万2208円

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